都市農が生み出す、人と都市と環境の“三方よし”〜SHIBUYA Urban Farming Project 勉強会レポート

渋谷の都市空間に緑と農を取り入れ、持続可能な未来を創造する「SHIBUYA Urban Farming Project」は、都市における緑地化を推進し、生物多様性を育む基盤として都市農(アーバンファーミング)を支援・推進しています。 このたび「アーバンファーミングからウェルビーイングへ 渋谷から広げる地球と都市と人のサステナブルな未来を次の世代へ」をテーマに開催された勉強会では、東京大学未来ビジョン研究センター/高齢社会総合研究機構 特任講師の田中友規先生が登壇。アーバンファーミングが人々の健康やウェルビーイングにもたらす効果について講演をいただきました。

ウェルビーイングとは —— 物質的豊かさと心の豊かさの両立

まず、キユーピー株式会社広報・サステナビリティ本部サステナビリティ推進部長の浜北さんからご挨拶。浜北さんは「2025年度はテストフェーズの年として、3つの分科会を中心に活動している」と説明。「ファームと環境貢献の可視化」「食と健康」「コミュニティと学び」の3分科会を通じて、アーバンファーミングの環境貢献度の可視化や地域コミュニティの活性化に取り組んでいることを紹介しました。

続いて、東京大学 田中友規先生の講演がはじまります。

田中先生はまず「ウェルビーイング」という概念について解説。SDGsの次に来るキーワードとして注目されているこの言葉は、単なる「幸せ」ではなく「良い状態」を意味します。

「ウェルビーイングとは、人が良い状態であるだけでなく、都市が良い状態、地球環境が良い状態であることを含みます。そして物質的な豊かさだけでなく、心の豊かさも大事なのです」と説明します。

デジタル庁が公開している「ウェルビーイング指標」によると、渋谷区は全般的に優れた指標を示す一方で、「自然の恵み」「自然の景観」「地域とのつながり」などの項目では全国平均を下回っていることが明らかに。「物質的に豊かとされている渋谷にも課題があり、アーバンファーミングの取り組みはこの顕在化している課題にアプローチできる取り組み」と指摘しました。

人生100年時代の健康課題 —— フレイル予防と社会参加の重要性

講演は次に、高齢化社会における健康課題へと話題を移しました。田中先生の専門である老年医学の視点から、「フレイル」という概念が紹介されました。

フレイルとは、いわばウェルビーイングの真逆の概念で、体も心も社会的にも悪い状態を指します。「ちょっとずつ弱くなり、行く所がなくなり、話す相手がいなくなり、食が細くなり、動けなくなる」状態で、日本の高齢者の約8割が、程度の差はあれどこの状態にあるとの見方もあります。

健康長寿のために重要な3つの柱として、「栄養」「運動」「社会参加と社会活動」を挙げました。特に「社会参加と社会活動」は、人とのつながりを維持し、社会性の低下を防ぐ上で極めて重要だと強調します。

「人は体が急に動かなくなるよりも、人とのつながりがなくなる、会食に行かなくなる、地域とのつながりが少なくなるといった社会性の低下から衰えていくケースが多い」と指摘。この社会参加の機会には地域差があり、同じ80歳前後の高齢者でも、住んでいる地域によって「閉じこもり傾向」の割合が3%から30%以上まで大きく異なるというデータを示しました。

アーバンファーミングが健康にもたらす効果 —— 実証研究から

田中先生自身が取り組んだアーバンファーミングの健康効果に関する研究では、里山保全活動に参加している高齢者の多くが「この活動で友人ができた」「人とのつながりが増えた」「健康になった」「生きがいを感じる」と回答。さらに「地域社会に貢献している」「新たな学びを得た」といった声も多く聞かれたとのことです。

ICTを活用したアーバンファーミングの取り組みでは、デジタルデバイスを活用した栽培サポート、チームでの作業、健康創造につながる活動、専門家への相談環境などを整備。この結果、参加した高齢者の80%以上が「満足した」「楽しかった」と回答し、「野菜を育てて勉強になった」「この歳で物を育てる喜びを感じた」「家族との会話が増えた」などの効果が報告されました。

客観的な指標でも、1日あたりの歩数が平均1,411歩(約15分)増加し、会話量が増え、筋肉の質が平均約10%向上するなど、明確な健康効果が確認されました。

「三方よし」のアーバンファーミング—人・都市・環境のウェルビーイング向上へ

講演の結論として、アーバンファーミングの「三方よし」の可能性を強調しました。

「人、都市、環境、これらが“三方よし”の状態になること。それがアーバンファーミングの魅力です」

アーバンファーミングによって緑溢れる渋谷に変え、それが子どもの生きがいや学び、そして健康に資する。健康だからこそやがてはその活動の担い手側にもなれる—この好循環は将来への良い投資になると説きます。

最後にSHIBUYA Urban Farming Projectへの3つのメッセージを述べました:

地域作りへの期待:子供から高齢者まで集い自然から学び、居場所をつくる。
結果、健幸な区へ:社会参加、社会との関わりを通じて、全世代が心身の健康効果を得られる街へ。
渋谷区から世界へ:SHIBUYA Urban Farming Projectを世界が真似したくなるモデル事業へ。

「Every Move Counts/渋谷を食べられる森・みんなの健幸長寿な森へ」というビジョンを掲げ、「何かを始めて動いていくことがとても重要だし、何かすることでそれが全て将来の渋谷への投資になっていく」と田中先生は締めくくりました。

田中先生の講演を通じて、アーバンファーミングが単なる都市緑化にとどまらず、人々の健康増進、社会参加の促進、地域コミュニティの活性化、そして環境保全まで包括的に貢献できる可能性が示されました。渋谷発のこの取り組みが、人・都市・環境の「三方よし」を実現し、持続可能な未来の創造に貢献することを期待します。

BACK